まるで、鳥のようだと思ったんだ。

籠の中に入れて大事にしていた筈なのに、いつの間にか飛び去っていくから。

空になった鳥籠は、何処か寂しくて、虚無感に包まれている。


お前が居なければ、俺はいつまでも憎しみに震えていられたのに。


「Birdcage」

消えてしまった。
10年前のトラウマが脳裏をよぎる。

姉貴。

突然消えてしまった。
たった一晩しか愛し合っていないのに。
もっと沢山知りたいと言った筈なのに。
さっきまで確かにこの腕に彼が居たのに。

イカル。

そう名乗る不思議な少年。
よく笑って、すぐにいじけて、土足で俺の心に割り込んできた不思議な少年。

痕跡にそっとふれ、昨夜の出来事が夢ではなかったと再確認する。


それからは、焦燥感と絶望感が渦を巻いて全身を縛り上げていた。
結局鳥は自由を求めて飛び去ってしまうんだ。

そう思って、諦めようとした。

なのに。

突然消えてしまった彼が、再び俺の目の前に現れて。

「よ。」

軽く言い放つ彼を抱きしめた。

いくら抱きしめても足りないこの気持ちをどうすれば良いのだろう。
同一の物になってしまいたい衝動。体が一つの物になるように、強く抱きしめた。

赤茶の髪の毛にそっと頬を寄せると、ピクンと彼の体が反応する。
「お、おい章仁…此処結構人通り多いから…。」
そう言って俺の胸を突き放すように手を当てて顔を赤くし背ける彼が無性に可愛かった。


我慢できずにその手を掴んで走り出す。勿論行き先は俺の家。
「どしたんだよ?んな急がなくてもこれからずっと一緒に居るっつったろ?」
イカルは戸惑いつつも俺の歩調に合わせてついて来た。


乱雑にドアを閉めて堪え切れずにその場でキスをする。
イカルの髪をつかみ、グイと自分に引き寄せながら。
いささか無理やりだったかもしれないと頭の片隅で思いながらも、なお相手を求めた。

長いキスに耐え切れずプハァッと息を吐いて唇を離すイカル。
離れたその唇を今度はイカルの首筋に持っていき、耳の下辺りをゆっくりと舐め上げた。
己の欲望を抑制するが如く。

「あっ…章仁、此処じゃなくて、その、ベッドに行かねえ?」
宥めるようなイカルの口調に少しイラつきを覚える。
「我慢できない。」
ピシャリと言い放ちシャツの裾から手を滑り込ませ、平らなその胸を撫でた。

心臓のあたりに手の甲をあて、彼の存在を確かめる。
上着をシャツごと脱がせ、鎖骨から顎へと舐め上げた。

「んぅ……章仁……。」
「何だ?」

イカルの艶っぽい声に冷静さを取り戻した俺は、急に照れて顔が紅潮するのを感じる。

「会いたかった。」

ポツン、と呟いたその言葉が愛しくて堪らなかった。

「それはこっちの台詞だ。急に消えちまって…。」
体を少し離してイカルの顔を見つめると、イカルは俺の唇にそっと口づけをした。
この甘い雰囲気に、いつまでも溺れていたい。

「言ったろ?これからは飽きるくらい一緒に居るからさ。」
「絶対だな。」
「うん。」

そう言うとイカルの腕が俺の首に回り、身体を寄り添わせた。
胸の突起の周りを親指で円を描くように撫でると、それだけでイカルは甘美な声をあげた。

「もう、感じたのか?」
耳元で囁きその口で小さな耳を含んだ。
「悪ィかよ…。んんっ、お前だっ…て、感じてんじゃん。…熱いよ。」




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