夢でも見ているのかと思ったほどだ。

旋律が海を紡ぎ出し、其処は大海と化した。

ゆっくりと、船は浮かんだ。



「始まり」



修道院に居た頃は、こんな世界の存在を知る由もなかった。
これが「世界」なんだと改めて思った。
ギャンブルや女遊びをしてポッカリと空いた心の隙間を埋めてはいたが、そんな必要は全く無い。

胸が高鳴った。

「うわっ…」
小さな叫び声が隣で聞こえたかと思うと、水の浮力に体はゆっくりと上昇していった。
声の主は我がパーティーのリーダー様、エイト。
「おいおい、そんな情けない声を出すリーダーがあるか?」
苦笑しつつ振り向いた。

…すると、必死で口をおさえている人間が一人。

プッ、と吹き出した後声をあげて笑ってしまった。
「エイトさんエイトさん、幻の海なんだから息は出来るぜ?」
すると彼はきょとんという顔をし、ゆっくりと口にあてた手を離した。

・・・・・・

「本当だ!早く言ってよ、ククール!」
心から言っているようで、可笑しくてしょうがない。
「周り見りゃわかんだろ?」
「だって…。」
ばつが悪そうに目線を泳がせる。
本当はわかってる。
周りの人間を気にする余裕もなく、このひたすら美しい世界に見惚れていたんだろう?
「ほら、行こうぜ。」
そう言って軽く手招きをした。
本当は手を握って抱き寄せて、そのままこの幻の海に漂っていたい。
そんな欲望に胸が少し熱くなった。
「ちょっ…先に行かないでよ!」
後から追いかけてくるエイトに意地悪く笑みをこぼし、また船を直視した。

「悪くないな。」

何に向かってなのかは、自分でもわからない。

(俺、守りたいものが出来ました。)

今度は、オディロ院長に。






船は動き出した。


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